Tomb of cloud (Mass Market Paperback) (1958) ISBN: 4101110026 [Japanese Import] by Hiroyuki Agawa

青年たちは何を想い散ったのか。史上最悪の戦術の犠牲となった特攻兵の清廉な魂を描く。昭和文学の金字塔。

太平洋戦争末期、南方諸島の日本軍が次々に玉砕し、本土決戦が叫ばれていた頃、海軍予備学生たちは特攻隊員として、空や海の果てに消えていった……。
一特攻学徒兵吉野次郎の日記の形をとり、大空に散った彼ら若人たちの、生への執着と死の恐怖に身をもだえる真実の姿を描く。観念的イデオロギー的な従来の戦争小説にはのぞむことのできなかったリアリティを持つ問題作。

本文より
私たちが海軍の生活に入ってから、きょうでちょうどまる五ヶ月の日がたちました。私はいま、ここで、まったくの孤独をあじわって暮しております。軍隊生活の孤独とは、きわめて特殊なもので、何百何千の人間の裸の肉体に、日々夜々肩を接して、にぎやかに、ときには騒々しく、いそがしく暮しながら、その繁忙からふとのがれた瞬間、つねに、空寂閑々とした曠野にひとり在るような、耐えがたいさびしさがひしひしと身にせまって来るもののようにおもわれます。自分のこころがどこへもしかとは結ばれず、ただの一度も自分の本心を深く告白したことがない。……(本書63ページ)

阿川弘之 (1920-2015)
広島市生まれ。1942(昭和17)年、東大国文科を繰上げ卒業し、海軍予備学生として海軍に入る。戦後、志賀直哉の知遇を得て師事。1953年、学徒兵体験に基づく『春の城』で読売文学賞を受賞。同世代の戦死者に対する共感と鎮魂あふれる作品も多い。芸術院会員。主な作品に『雲の墓標』『舷燈』『暗い波濤』『志賀直哉』のほか、『山本五十六』『米内光政』『井上成美』の海軍提督三部作がある。